はじめまして。
ジャンプ力に定評のある前田と申します。
高いところからすみません。
突然ですが、みなさんはお箸の持ち方に自信はありますか?
僕は、あるにはあるのですが、マナー講師の前で「ある」と言い切れるかというと微妙なところです。
ちなみに、Twitterでアンケートをとってみたら、こんな結果になりました。
自分のお箸の持ち方に自信はありますか?
— ジャンプ力に定評のある前田 (@jumpmaeda) 2018年4月23日
半数以上が「箸の持ち方に自信がある」とは言い切れないみたいです。
ということで今回は、そんな方のために、お箸の正しい持ち方を調査してみました!
…といきたいところですが、
僕自身は
「箸の持ち方とかそんな小さいこと、どうでもよくね?」
と思ってるんですよね。
なので…
大きな箸で正しい持ち方を調査してみました。
箸のサイズは2mで、重さは1.2kgです。
これでご飯を食べるとしたら、どんな持ち方が正しいんでしょうか。
街の人に聞いてみたいと思います。
誰も立ち止まってくれない!!
たぶん、僕の前を通り過ぎる数秒間では、言っていることの意味を脳が処理しきれないのでしょう。
通り過ぎて数秒後に「今、耳に流れてきた日本語はなんだったんだ…」と振り返る人が大半でした。
見て分かる通り、人が捕まりそうもないので…
場所と調査のやり方を変えました。
と、聞いてまわる方法で、かなりの方が答えてくれました。
そこで、ここからはその調査結果を発表していきます。
普通派
まず、最も多かったのがこちらの持ち方です。
小さい箸と同じ持ち方ですね。名付けて「普通派」
…と、当然のようにこの持ち方をしていたのが印象的でした。
しかし、この持ち方に対するみんなの意見はというと…
<この持ち方に対するみんなの意見>
- 普通に持ちにくそう
- 常識に囚われすぎている
- 悪い人ではなさそう
- 親からのしつけはしっかりされてるなとは思う
- むしろ、親のしつけがなっていないのでは?
- フツーすぎる
かなり否定的な意見が多かったですね。
どうやら小さい箸の正しい持ち方=大きい箸の正しい持ち方 ではないようです。
普通派・地
同じフツーの持ち方でも高評価を獲得した方がいました。
それが、この方
こちらの彼は「安定する」という理由で箸の下のほうを持ったのです。
名付けて「普通派・地」
これに対しては…
<この持ち方に対するみんなの意見>
- いくつかある持ち方の中では持ち方の綺麗さ・使いやすさでバランスがとれてる
- 堅実に普通の箸の持ち方をしつつも、「下の方をもつ」というひと工夫を加えてるのがなんかいい
- 遊ぶにはこの人では少し物足りないけど、結婚するなら一番安定しそう
このようにただの「普通派」に比べ、高評価を得ていました。
もちろん
- 下の方を持っただけで満足してるタイプ。普通に持つよりタチが悪い
といった厳しめの意見も相変わらずありました。
次に、少し変わった持ち方をしていた人、フツーの持ち方だけどこだわりの強い人などを紹介していきます。
二刀流
2番目に多かった回答がこちら
名付けて「二刀流」です。
彼らによると「長くて重い箸をコントロールするには片手では難しい。だから片手に一本ずつ持てば最も扱いやすくなる」とのこと。
<みんなの意見>
-
- 『持ち方』はいいとして、『食べ方』が汚い
- 箸を両手に一本ずつ持つのって子供っぽい(普通派・男性)
- これが正解だと思う
賛否両論といったところでしょうか。
二刀流・突
また、同じ「二刀流」の流派でも
「料理を突き刺して食べたほうが食べやすいし、なんかワイルドで男らしい」
と主張する方も。
「二刀流・突」
この「二刀流・突」 に対する意見は以下の通り
<みんなの意見>
-
- 強そう
- 食べやすさでは一番だと思うけど、『料理を箸で突き刺す』ってマナー違反では?
- ワイルドで男らしいと言えば良いように聞こえるけど、育ちが悪いだけでは?
- 皿に残った最後の一個の唐揚げを真っ先に食べそう
二刀流・脇締め
二刀流派にはまだまだ種類があります。
その名も「二刀流・脇締め」
脇で固定します。
最初は彼女も普通に「二刀流」で持っていたのですが
「箸が自由に動きすぎるがゆえに箸先が安定しない」と気付き、この方法を編み出していました。
さらにこの「二刀流・脇締め」からも派生型が生まれます。
二刀流・脇締め〜紅葉を添えて〜
手を添えることでさらに箸を固定する「二刀流・脇締め〜紅葉を添えて〜」です。
女性らしさを感じさせる美しい所作ですね。
食べ物を掴んだら箸先を交差させていき…
徐々に角度をつけていくことで口に運びます。
<みんなの意見>
- かわいい
- 食べ物を口に流し込むようで、はしたない
- 確かに脇で固定すると安定しそう
- 奥ゆかしくて京都らしい
両手剣
さて、片手で2本とも持つ「普通派」、
片手で1本ずつ持つ「二刀流」について説明してきましたが、ここで第三の流派をご紹介します。
両手で二本の箸を握る「両手剣」 です。
箸の頭を固定することで支点をつくり、ものを掴みやすくする、ピンセットのような考え方です。
所作は
①掴んで
②上に掲げて食べ物を手元まで滑らせ
③いただく
両手剣・地
この両手剣の派生型が「両手剣・地」
すなわち下のほうを持つ考え方です。
箸の真ん中あたりを固定して支点をつくり、
箸先に近い部分を力点としています。
「繊細なコントロール」と「力の入りやすさ」が高い水準でにまとまっていますね。
そして、食べるときはこのように食べます。
なんか遠近法で僕が食べさせてもらってるように見えますが、違います。
白い服の男性に注目してください。
こうやって口に運ぶようにして食べるそうです。
これ、現時点で一番良くないですか?
動きに無駄がなく、美しいと個人的に思います。
さらに他の方も…
<みんなの意見>
- 渋い
- 悔しいけどこっちのほうがなんかそれっぽい(普通派・男性)
- たぶんこれがマナー
- 似合う人がやればかっこいいけど、似合わない人がやっても『箸に持たされてる感』がでそう(二刀流・女性)
- 箸の頭部分の余りが長いので、後ろに立っている人がいると危ない。食事中に和室の建具を傷つけそう(二刀流・男性)
二刀流の嫉妬が見苦しいですが、おおむね高評価です。
さらなる流派をもとめて
もっと、いろんな流派があるのではないかと思い、調査を続けていると、目の奥がギラギラした方を見つけました。
なんというか、不思議なオーラを放っているような方です。
僕は「この人に大きい箸の持ち方を尋ねたら絶対に何か生まれる」と感じたので話しかけてみました。
まさかの即答でした。
これまでの人は「大きい箸の持ち方を教えてください」と尋ねたときに、
必ず一度は聞き返してきましたが、この方は違います。
まるで、僕とこうやって出会い、この質問をされることをすでに知っていたかのような即答です。
さらに、彼の目は自信に満ちています。
「ほかの人とは目が違う…この人なら新たな流派を切り開くはず…」
そう確信した僕は、その2つの剣を勇者に託しました。
そして彼がやってみせた持ち方がこちら!
まさかの普通派!!!しかも持ち方そこそこ汚い!!
勝手に期待した僕が悪いのは分かっていますが、このときだけは
「二度と大きい箸を持たないでほしい」と思いました。
一刀流
最後に出会った二人組。新しい流派を切り開いてくれたのは彼らでした。
どうしようかな…あ、そうだ!
そこで、一本にしちゃう。
ちょっとこれ持ってて。
ほら、意識を一本のみに集中できるので…
『一刀流・阿吽』
でも、ふたりで食べるのってマナー違反になりませんか?
<みんなの意見>
- マナー以前にふたり必要なので機能的ではない
- いい方法ではないが、なんか仲良さそうで、ほっこりするのでこの人達に対してだけは強く言えない(普通派・女性)
というわけで以上が今回の調査で意見がでた全持ち方です。
流派についてまとめてみたので以下の画像をご確認ください。
画像の左下のスペースが余ったので適当にネコを描いておきました。感想待ってます。(jumpmaeda@gmail.com)
さて、みなさんはどの持ち方が正しいと思いますか?
僕はこの『両手剣・地』が正しいと思います。
でも、専門家の方が見たらどうなんでしょうね?
疑問に思ったのでお箸屋さんに聞いてみます。
ということでやってきました
「お箸を考える店 八四八(はしや)」さんです。
箸のセレクト・販売だけでなく、箸の制作もされているお箸屋さんです。(店主はシャイな方なのでモザイクを)
さっそく、質問をしてみます。
まずは普通派についてです。
--最も多かったのは普通に持つという方です。特に、この方は、「大きくなろうが箸は箸なのでこの持ち方をすべきだ」と言っていましたが…
箸屋として言わせてもらうと
まずこれ、お箸じゃないです。
--え…
これで食べ物食べられませんよね…
お箸は食べ物を食べるための道具なのでこれはお箸ではありません。
料理に使う菜箸などもありますが、それにはまた「菜箸」という別の名前がついてます。
--なるほど…大きい箸は箸ではないんですね
箸屋のひとりとして、これを「お箸だ」と言うことはできません。
なので、質問に答えるときは、これを「箸に似た何かしらの道具」として、答えさせてもらいますね。
そのときに箸屋の知識が生かせればと思います。
--普通派には「普通派」と「普通派・地」があるのですが、箸屋さんからみてどっちの持ち方が合理的だと思いますか?
(▲普通派)
(▲普通派・地)
まず、僕の知っている「お箸」では下で持つと上の余りが大きくなります。
すると、箸の頭が当たったり、大きく交差したりします。これ開きづらいですよね?
反対に、上の方を持つことで…
開こうと思えばこれだけ開くんです。
このように上を持ったほうが余計な力も要らず、リラックスして操作ができるので、
上を持ったほうがいいですね。
--なるほど…確かに「普通派・地」は箸の頭が大きくクロスしてますもんね
まあ、それはお箸ではないので、これとは全く関係ない話ですね。
この場合、長くて棒の先が重くなるので、そもそも片手だけでは扱いが難しいと思います。
--片手で一本ずつ持つ「二刀流」だったら大丈夫なんでしょうか?
重さの問題はクリアできるかもしれませんが、どこかを固定したり、支えたりしないと棒の先は揃わず、ものを挟んだりつまんだりするのが難しいと思います。
試しに箸でやってみせますね。
まずは、正しい持ち方で豆をつまんでみます。
「ものをつまむ」ときに大事なのは箸先が揃うこと(クロスしないこと)です。
上の箸を親指・人差し指・中指の3本で支える正しい持ち方であれば、このように箸先が揃います。
次に、よくある「上の箸を親指と人差指だけで持ってしまう」パターンでつまんでみます。
箸先が揃わず、力任せに摘もうとしたので豆を弾いてしまいましたね。
中指の支えがなくなるだけでつまむ難易度がぐっと上がるんです。
なので、箸屋の知識を応用するとしたら、この長い棒を扱う際にも棒の先を揃える工夫が必要ですね。
--「両手剣」と「両手剣・地」はかなり箸先を揃えやすいと思いましたが…
(▲両手剣)
(▲両手剣・地)
お箸って箸同士の幅が確保できるからこそ
動かせるという理屈なので
棒の頭同士がくっついているこれは、そもそも箸の考え方とは違います。
お箸というよりピンセットのような道具になってしまいますね。
--では、これならどうでしょう。「二刀流・脇締め」です
--さらに「二刀流・脇締め~紅葉を添えて~」というのもあるんですけど…
あの…すみません…
--あ、「二刀流・脇締め~紅葉を添えて~」の手元のアップならこちらです
--ちなみになんですけど僕も持ってみたんです!どうですかこれ!
--あとはこんな持ち方もありますよ。これについてはどう思います?もっといいアイデアとかはありますか?
違うんです!!
--?
お箸ってこう持つんです…!!!
--え!!
私は箸屋なので、「箸は片手でこうやって持ってこうやって動かす…そしてその箸にはこんな歴史があって…」という知識があります。
それを知っているからこそ、良くも悪くもこういう発想はできないですし、
これなんかもう発想が飛び過ぎててもう箸屋としてのアドバイスもできません…
--…すみませんね…なんか…こんな取材で…
実はこれを企画して、大きい箸の持ち方を聞いて回っている僕自身も「今、僕は何をしているんだろう」と終始思っていました
まあ、逆に言えば、
「正しい箸の持ち方」について普段からよく考えていないから、これを箸として渡されたときに一般の人もこういう面白い持ち方をしてしまうんじゃないかと思います。
--なるほど…ではその「箸の正しい持ち方」ってそもそも、なんのためにあるんですか??
さっき、私が間違った持ち方をして豆をつまもうとしたときに、豆を弾いて飛ばしてしまいましたよね?
例えば誰かと食事をしていてその人が食べ物を弾いて飛ばしたり、服にポロポロ落としているのを見ると、イヤな気持ちになると思います。
正しい箸の持ち方の本質はそこです。
機能的に使える箸の持ち方をすれば、粗相をしにくくなります。
人を嫌な気持ちにさせにくくなります。
つまり正しい箸の持ち方は相手のためにあるんです。
--正しい持ち方をすることは相手に対する思いやりなんですね
はい。でも、その一方で、正しい箸の持ち方は時代にあわせて変化してもいいと思います。
昔の人は煮たり炊いたりして柔らかく調理された和食・日本食を食べていました。
和食や日本食であれば今、正しいとされている箸の持ち方がもっとも食べやすいんです。
でも、食文化はその頃から大きく変化していますよね。
質問ですがハンバーグはナイフとフォークで食べます?
そう、日本人っていろんなものを箸で食べようとするんですね。
そうなったときに、例えば、表面のこんがり焼かれたハンバーグを正しい箸の持ち方で裂こうとしてもなかなか難しいんです。
裂こうとするとぽんと弾いたり、勢い余ってソースが飛んだりします。
これってほかの人が見ると嫌な気持ちになるかもしれませんよね?
『箸の正しい持ち方』は人をイヤな気持ちにさせないためにあります。
だったら、ハンバーグにはハンバーグに合ったお箸の持ち方があっていいですよね。
--「食べ物に合わせて持ち方が変わってもいい」ということは「大きい箸の持ち方」にも一つの正解はないんですね
正解はないのですが、今の話とはまた別の話です。
そもそも大きい箸は箸ではないので箸屋としての答えは無いという感じですね。
--逆に今まで見てもらった写真の中に「親の教育を疑うような」最低な持ち方もなかったですか?
「箸の正しい持ち方ができていない人」に対するよくある意見ですね。
--そうですそうです!
世の中には「どんなしつけを受けてきたのか」とか「いいから正しく持てよ」とか
そういう言い方をする人もいます。
箸を正しく持てない人はそういう言葉に怒ったり、悲しい思いをしているんです。
最後の質問ですが、箸屋さんとしてこれについてどう考えてますか?
そういう言葉を使うのは良くないと思います。
そもそも、子育ての価値観はそれぞれの家庭で違います。「箸の持ち方」だけで親のしつけについて、とやかく言うべきではないんです。
そして「なんで正しい持ち方をしないといけないのか」を説明せずに
「いいから正しく持て」なんて言われてもカチンとくるのも当然だと思います。言われるほうからすれば理不尽ですからね。
箸を正しく持つことの本質は「相手をイヤな気持ちにさせない」という思いやりの心です。
日本人の根底にある美徳でもありますし、箸屋の私が一番かっこいいと思っている部分でもあります。
だからこそ、箸を正しく持っていない人への「伝え方」にもその「思いやり」を持ってあげてほしいですね。
--ありがとうございました
いかがでしたか?
- 大きい箸は箸ではないこと
- 大きい箸は箸ではないので正しい持ち方とかそういうのはないこと
- 小さい箸の正しい持ち方の本質
が分かりましたね。
これからは「思いやり」をもって小さい箸、すなわち箸を持ったり、持ち方を誰かに教えてあげましょう。
ちなみに僕は、
思いやりの無い人たちのせいで、
もうすぐ地面に叩きつけられるので、ここらで失礼します。