家出のようなものが趣味の34歳女が 「人は愛する人の帰りをどれだけ待つことができるのか」を考えてみた

猫のちくび

2018.09.25

*前回までのおはなし

よちよち歩きの“ねこちく”も3回目。

コーヒーメーカーって…くさることがあるんですね」「子ども苦手なんですか、へえ、やっぱり…」という、引き気味の感想しかいただけず、落ち込みぎみの私(ライター福永)。

皆、積極的に感想を送ってね!

「思ってるだけじゃ何も無いことと同じさ」って誰かが唄ってたよ。

 

 

(第3回)

家出のようなものが趣味の34歳女が「人は愛する人の帰りをどれだけ待つことができるのか」を考えてみた

 

山口県周防大島町で行方不明の2歳児を発見し、

一躍「時の人」となったのが尾畑春夫さん(78)だ。

誰もが希望を失いかけていた最中、

警察でも発見できなかった子どもを救った、

“スーパーボランティア”の救出劇。

夏の終わりの列島を駆け抜け、連日メディアを賑わせた。

 

この尾畑さんの地元が、

私が4歳から10歳まで 幼少期を過ごした大分県の速見郡日出(ひじ)町だった。

 

名物は城下カレイ。

ランドマークは「ハーモニーランド」。

忘れもの番長の私の記憶のメモリーカードに

ちっとも残っていない、小さな田舎町だ。

 

ボランティアは身体が動く限り続けるご意志。

自分の車で寝泊まりし、

食事も全て自分で用意する。

お酒は震災後から断酒中だという。

東日本で最後の仮設住宅が取り壊されたときに

昔のように呑むことを楽しみにしているそうなのだ。

 

(あの日出町に神様がいたのね?)

 

「尾畑さん、本当にありがとう!」

「素人からかけ離れたプロだな」

「どんだけスゴいじいちゃんなんや…!」

 

ネット上には尾畑さんへの称賛が相次ぐ。

 

(尾畑さんは生まれ変わっても人間だわね?)

 

そんな感想とともに、

わたしが尾畑さんに対してどうしても気になってしまったのが、

「奥さんが近くにいらっしゃらない」

という事実。

 

とある情報番組のインタビューで

「奥さんは5年前に用事があってまだ帰ってこない」

と、あっけらかんと笑顔で話していた。

 

な、なんと粋な返し方なのだ…!

それにしても、

 

(えらく長い買い物だなぁ)。

 

神様の探しものはまだ見つからないようだ。

 

 

 

 

 

 

最近見たテレビにこういうものもあった。

「家、ついて行ってイイですか?」

という人気番組だ。

 

この番組は、終電を逃した人にタクシー代を払う代わりに「家、ついて行ってイイですか?」と頼み、その素人さんの家について行くバラエティ。

 

たまたま見たのが、沖縄の回だった。

深夜、自身が経営する居酒屋を締めようとする女性(みどりさん・43歳)に声をかけ、

彼女の家について行けることになった。

 

日用品やら食料やらを色々買い込み、

スタッフと共に真夜中に帰宅。

小さなアパートには子どもが5人いるのみ。

沖縄名物ヘチマ料理をごちそうになったあと、

スタッフが「旦那さんは今どこに…?」と尋ねる。

 

みどりさんはこう言った。

 

「うちの夫、40日以上行方不明なんですよ」。

 

(えらく長い旅行だなぁ)。

 

聞けば、失踪前にケンカをしたきり帰ってこないのだという。

失踪届けも出しているそうだ。

 

さすがはおおらかな沖縄の女性。

まだ夫に対して好きな気持ちがあると答え、

「どこに言ったんだろうね」

と最後にポツリとつぶやいた。

 

 

 

 

人は、愛する人の帰りをどれだけ待つことができるんだろう。

 

 

わたしの趣味は日本全国をめぐるひとり旅。

行き先も宿泊先も帰る日もほぼ決めずにふらっと出かける。

猫の家出のようですね。

 

学生時代や社会人になってからも、

コンスタントにひとり旅を続けた。

お金がないから、ほとんど夜行バスで。

夜中に出発して、早朝着いて、駅のトイレで化粧をして、好きなときに、好きなところをまわって、ひたすら地元の人たちと交流して、帰る。

 

前の職場を退職してすぐ、夫を驚かせようとおもって 行き先も帰る日も告げずに家を出た。

手書きの日本地図をペタッとダイニングテーブルに貼って。

「このへんに行くから」

と旅行先を矢印で指して。

 

その縮尺のおかしな日本地図と、

「情報を一切明かさない」

という妻にあるまじき行動をとったわたしに対して、まわりがプチ騒然となった。

(許しておくれよ〜)

 

この家出旅はいまも続いている。

 

ひとり旅の極意については語ることもできないけれど、他人との旅が苦手なのだ。

集団旅行の時も

「あ、わたし一人で海見てますね」

と言って群れからススス…と離れてしまうタイプ。

 

昔、そう言って集団を見送り、

島の小さな商店でエログロ小説を購入し、埠頭でひとり読みふけった。

「飛び込むかと思って見張っていた」

と言われたっけ。

 

 

 

 

ちなみに旅行中(家出中)、ほんとうにびっくりするくらい夫とは連絡をとらない。

電話もしないし、LINEもスタンプ2つ程度。

ただ、わたしの家出なんてせいぜい1週間ほどだし、今のところちゃんと帰ってきているから問題ないと思う。

 

たまたま同時期に目にした2つのニュース、

それぞれの、ちょっといびつな愛のかたち。

 

夫婦のことは、夫婦にしかわからない。

まわりにとっては事件でも、2人にとってみれば大したことではないかもしれない。

 

それでも、人は愛する人の帰りをどれだけ待つことができるんだろう。

 

次の家出に出発するとき(大体夫が目を覚ます前に家を出るのだが)、腕をつかまれて「もう待てません」と言われたら、どうしよう。

 

photo:akiko yamaguchi

 

 

 

>猫のちちくび #02 嫌いじゃない

 

>猫のちちくび #01 コーヒーメーカーをくさらせちゃった 夏の日の2018

 

 

福永あずさ

熊本市在住のフリー編集者・ライター。高校まで宮崎暮らし。カメラマンの夫と愛猫と、水前寺の古いアパートでぼんやり暮らしてます。  バーと離島とスナックが個人的なパワスポ。年に2・3回、日本の酒場をめぐるひとり旅に出ます。遊ぶことに関して脅威の集中力を発揮しますが、請求書をすばやく出す、掃除機をきちんとかける、などの生きていく力がほぼ皆無。一年中唐揚げ食べてます。

この人の記事を見る