コーヒーメーカーをくさらせちゃった 夏の日の2018

猫のちくび

2018.07.03


猫のちくびって見たことありますか?

 

たぶん、ない人がほとんですよね。

コロリとお腹を見せてくれた瞬間に、

ぐいっと、顔を近付けないと見れませんものね。

 

そんな風に、たぶん、誰も知らないヒト・モノ・コトに

ぼやっとスポットをあてた私日記です。

どうぞお気軽に「ねこちく」と呼んでください。

▲夫から寄せられた晩ごはんの確認メール

 

 

私とはじめて会ったとき、

夫の目には天使の羽が見えたらしい。

 

 

それが何色だったかは聞いていない。

サイズも聞いていない。

そのことを知ったのは、私たちの結婚式だった。

 

新郎新婦紹介のとき、司会者がこう話した。

 

「新郎は、はじめて新婦と出会ったときに、

こんな風に思ったそうなんです。

『天使が舞い降りた』と…」。

 

うやうやしく話されたこのフレーズのおかげで、

新郎新婦入場のタイミングで「エンジェル」コールを

連発されることになるのだが、

陽気な仲間たちのラブコールだと、大して気にとめなかった。

 

 

8年前、わたしは確かにエンジェルだった。

 

当時、大きく、おそらく白かった天使の羽は、

きっと、もうついていない気がする(つーか100%)。

夫に、今もその羽が見えるのかどうかはこわくて聞けずにいる。

 

世の中には大きくわけて2種類の人がいると思う。

ひとと一緒に暮らすことができる人、できない人。

 

一度も同棲をしないまま結婚生活に突入した私たちは、

それは波瀾万丈な“始まり”を迎えるのだった。

 

まず、わたしに生活能力がいちじるしく欠如している

ことに気付かれてしまった。

それはもう、おそろしく(ベストジーニスト賞でたとえると

殿堂入りレベル。カンヌ映画祭だとパルムドール賞レベル)。

 

まず、朝食を食べれない。

掃除ができない。

衣替えができない。

公共料金を期限内に支払うことができない。

ビデオの予約録画ができない。

猫のトイレを替えるのをいつも忘れる。

夜飲み会に出たら朝まで帰らない。

たまに19時間くらい寝る。

時々、だまって旅に出る。

 

はじめてつくった味噌汁は寸胴鍋で10人分あった。

「サンマに3本線を入れたらうまく焼ける」と

言われたから入れた画像をSNSにアップしたら、

「このネコの引っ掻き傷みたいな線は一体なんだ」と

ネットが騒然となった。

 

 


…これ以上書くと、泣きそうなのでやめます。

もうちょっと泣いてますよ。

 

何というか、仕事はまぁまぁ順調で、

人間関係もほどほどうまくいっていて、

少ししあわせでちょっと不幸だったりして、

それなりに生きてきたけど。

 

 

わたしには、決定的に、欠けていた。

「生きていく力」が。

 

 

そしてつい先日、久々にやらかした。

コーヒーメーカーと、大量の箸をくさらせてしまったのだ。

詳細はみなまでいわない。

想像してほしい。

 

我が家のまぁまぁ高級なコーヒーメーカーと

こだわりの箸が、

くさった。

ぐちゃっと。

 

週末の夜酔っぱらって帰宅した次の日の朝、

キッチンに行くと、コーヒーメーカーと

大量の箸がきれいに撤去されていた。

 

その、しずかなしずかな場面に言葉をつけるとしたら
こんな感じだろうか。

 

「スン…」。

 

 


「コ、コーヒーメーカーをくさらせるって、

どんなプレゼンに勝つよりすごいんやないのわたし〜!?」

 

ぺろっと舌を出してペコちゃんスマイルをかまそうと

思ったけど、なすすべなし。

ていうか、もうとっくに家を出て、仕事に行ってらっしゃった。

 

まわりの友人たちが、SNSでさかんに

 

「♯今日の梅しごと」

「♯今年は去年よりうまくできた!」

「♯砂糖は甜菜糖です」

 

なんてうつくしい暮らしをアップしている初夏、

わたしはただひとり、

コーヒーメーカーをくさらせるしかできないのだった。

 


夫は土偶のような目で、

「くさってたから捨てたよ」と静かに言った。

 

その晩はいつもより夕ご飯の品数を多くつくり、

必死に、ぶりぶりと媚びてみるしかなかった。

 

世の中には大きくわけて2種類の人がいると思う。

ひとと一緒に暮らすことができる人、できない人。

 

今年の8月で結婚8年目をむかえる。

 

そういえば最近、大切な家具や食器類がぜんぶ、

夫のスタジオに運び込まれていることに気付いた。

 

 

 

 

>猫のちちくび #03 家出のようなものが趣味の34歳女が 「人は愛する人の帰りをどれだけ待つことができるのか」を考えてみた

 

>猫のちちくび #02 嫌いじゃない

 

 

 

福永あずさ

熊本市在住のフリー編集者・ライター。高校まで宮崎暮らし。カメラマンの夫と愛猫と、水前寺の古いアパートでぼんやり暮らしてます。  バーと離島とスナックが個人的なパワスポ。年に2・3回、日本の酒場をめぐるひとり旅に出ます。遊ぶことに関して脅威の集中力を発揮しますが、請求書をすばやく出す、掃除機をきちんとかける、などの生きていく力がほぼ皆無。一年中唐揚げ食べてます。

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