和食給食応援団を通じて感じた「日本の食の未来」

和食給食サミット2018

 

今年の稲刈りが終わった直後、小学4年生の息子に突然「講演依頼」なるものがきた。差出人は「和食給食応援団」。団体のホームページを見てみたら、こう書かれていた。

 

「未来を担う子どもたちに、もっと和食の魅力を知ってもらいたい。そんな思いを持った和食料理人が結集し、2014年に設立した和食給食応援団。全国各地の小中学校を訪問し、和食給食の調理提供や食育授業を行い、栄養教諭・学校栄養職員の方々とともに和食文化の継承に取組んでいます」。

 

そんな熱意のある料理人さんたちを中心とした団体が、4年前から毎年「和食給食サミット」なるイベントを実施しているのだそうで、そのサミットで「農業を愛する小学生として、農業の現状と給食について語ってほしい」というのである。講演依頼文にはご丁寧にすべてふり仮名が振ってあったのが心憎かった。なんでも、昨年のサミットで枕崎(鹿児島県)の鰹節屋さん親子が登壇し、栄養士さんや調理士さんの目の前でカツオの解体ショーをした後、小学4年生の瀬崎リクくんによる講演を実施したところ、子どもが語る「食の生産現場」に大人たちが愕然とし、生産現場の危機を全く知らなかったことを深く反省して、、涙を流して聞く人もいたとかいないとか。

 

 

和食と言えば出汁。出汁と言えば鰹節。でも鰹節は生産量も消費量も年々落ちており、伝統的な鰹節の生産者は深刻な後継者不足に直面している。農業界と同じである。そんな話を小学4年生の少年から聞いて初めて知った参加者の皆さんが、今年もまた生産現場の話を聞きたい、という流れになったようだ。そんな流れをつくったりく君から、「僕みたいな小学生が他にいるなら会いたい」と主催者にリクエスト。そこから、「農業好きの小学生を探して話してもらおう」と発展したのだそうで、農作業をする姿をちょくちょくSNSにあげて人目についていた我が家の三男坊に白羽の矢が立った次第である。

三男坊は小さいころから農作業が大好きで、保育園・幼稚園には行かずに父の手伝いをしていた。あげくに学校も行くのをやめてしまった時期があったほどだが、それとて助かりすぎるので放っておいた。昔でいう「田んぼ学校」だ。

そんなわけで、11月4日に東京都内で開催された「和食給食サミット」に親子で参加させて頂いた(私は荷物持ち)。朝からびっちり詰まったプログラム。基調講演、グループ討議、分科会、調理実演会、そして衆議院議員の小泉進次郎さんを迎えた特別鼎談、小学生による講演。中でも、子供好きで知られる小泉進次郎さんを交えてのトークセッションは、これまでに聞いたどんなパネルディスカッションよりも面白かった。少し紹介しよう。

 

 

 

 

小学生VS小泉進次郎さん

 

りく
進次郎さんはお味噌汁をつくるとき、何で出汁を取りますか?
進次郎議員
!?!?!?
りく
つくらないんですか?
進次郎議員
大人の事情でね、なかなか作れないんだよ
りく
(残念そうに)そうなんですね・・・
進次郎議員
でも僕が子供の頃は、ウチは鰹節を削ってたよ。親父じゃないけどね、削るのは。削りそうにないでしょ?

 

(会場、笑いに包まれる)

 

讃太郎
僕、学校行っていない時があったんですけど、その時にピアニストさんの全国ツアーに連れて行ってもらって、いろんな場所の美味しいものを食べたんです。そんなのが給食でも食べられたらいいなと思って…
進次郎議員
学校行ってない時にピアニストさんと全国ツアー!?!?!?それ、ロードムービーにしたら最高だね

 

等々、「規格外」の子供たちに突っ込まれたり意表を突かれたりしながらも、その度に機転の利いた返しで会場を盛り上げる小泉進次郎さん。その鼎談後に15分ものプレゼン時間をピンで堂々と発表した二人の姿には、会場から大きな称賛を頂いた。二人とも、家業を誇りに思い、そこの跡取りであることを自負し、伝統的なコメ農家や鰹節屋の意義や役割を、しっかりと伝えていたのが立派だった。

海外から安く入ってくる輸入品や、大規模な工場で機械的に生産される商品が大型チェーンのスーパーに並ぶことで、消費者の皆さんは安価な食料品を手に入ることができる。しかしその裏で、国内の生産者は瀕死の状態に陥ることになる。「それでも良いではないか」と言われたら、返す言葉は特にない。でもたとえ強がりに聞こえたとしても、「それで良いのね!?」と逆襲したい。私たちが辞めちゃって、本当にいいのね?と。

 

 

 

 

和「食」の未来

 

伝統的な家族経営の農家や漁師や豆腐屋や醤油屋や味噌屋や鰹節屋がこの国から姿を消してしまった時、ユネスコの無形文化遺産にまで登録された「和食;日本人の伝統的な食文化」は、すべて外国産の原材料で作られることになるかもしれない。それについても、「それでも良いのではないか」と言われるのであれば、反論はしない。たとえ外国産の原材料で作られるとしでも「和食」という文化が残るのであれば、なくなるよりはマシだから。しかし世界で起きている出来事に少しでも目を向けてみると、「私たちが辞めてもいいのね?」という言葉の真意が分かっていただけるのではないだろうか。

 

地球温暖化による異常気象は日本でも起きているので、変化を肌で感じている人も少なくないだろう。日本では人口が減少し始めているのに対し、世界では人口が爆発的に増えており、今後は食糧の奪い合いが始まるともいわれている。国内の政治についてはスキャンダルしか報道しないくせに、速報まで各局で流したアメリカの中間選挙では、トランプ政権が「ねじれ議会」になることでの国内外の影響をこぞって報道している。ねじれの影響は不明だが、国際社会は不安定な材料をいくらでも抱えていて、いつどこで新たな戦争が起きたとしても不思議はない状況にある中、極東の小国・日本にこれからも安定的に食糧や燃料が入ってくるかどうかなんて、誰にも予測がつかない。むしろ「入ってこなくなるかもしれない」と予測して手を打っておかないと、入ってこなくなってから焦っても遅い。

 

ちょっとキツイ表現になってしまったので、言い方を変えよう。日本の文化として育まれてきた(さらにその価値が世界から注目されている)「和食」を次世代にも繋げていきたいということであれば、料理の方法だけでなく、食材の作り方を知っている人が残っている必要があると私は思う。私たち子育て世代が辞めてしまったら、現役の生産者が1組減るだけでなく、なんとなくでもそばで見ていた子供たちも、作り方を忘れていくだろう。時代は変わるし社会も変わる。でもどんな時代でも「食べる事」は必須だ。美食・グルメブームはとどまるところを知らないが、最低限の食事をとるための食材さえ、将来どうやって確保するのか見えないな、と現場で感じている中、日本の食の未来に希望がみえる思いがしたのと同時に、前回のコラムでご紹介した「自分の頭で考えられる次世代を育てる」ことの大切さを改めてひしひしと感じた1日だった。

 

ERI(大津愛梨)

ドイツ生まれ、東京育ち。大学卒業後、熊本出身の夫と結婚し、共にドイツへ留学して、修士課程を修了。2003年から夫の郷里である南阿蘇で就農し、無農薬米などの栽培に取り組む。2014年に女性農家によるNPO法人「田舎のヒロインズ」の理事長に就任。農業、農村の新しい価値について発信や活動を続けている4児の母。

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