絶望という名のドレス

猫のちくび

2018.12.29

*まずは仕事納めの日の小噺から

 

2018年12月28日。

目が覚めて よだれをふいたら 窓辺に光が 微笑んでた

(星野源/Family song)

目が覚めて リビングに出たら 朝の光のなかで

…約2週間前からコツコツとすすめている

年賀状書きにはげむ夫が微笑んでいた。

「飼い猫のお尻が最近ゆるいみたいなんだけど」

 

「えっ、ちくびじゃなくて? お尻のほう?」

 

というゆるゆるの会話から始まった仕事納めの日。

 

こちらといえば、本日も分単位のスケジュールで、

(もちろんこのコラムも年賀状も一切手つかず状態で)

2018年の終わりまで「この差ってなんですか」状態。

パパママ、あずさは今年34歳になりました。

 

2018年も残すところあとわずかということで、

「今年、書きのこしたこと」について一筆。

*だって出逢ってしまったの

 


▲この美しさをみよ…!

 

社会に飛び出て12年目。

独立してはやくも5年半。

わたしはけっこう「着道楽」なタチで、洋服が好き。

洋服まわりのものも大好きなほう。

制服がない職業なので、基本的に毎日私服で仕事をしている。

 

そんなわたしの2018年。

総括すると、結婚式が多い年だった。

大学時代の親友、社会人になってからの大切な友人たち、

そして夫婦でお世話になっている親戚みたいな子。

どれも大事な人たち。

しかも、しかも、割とメンバーがかぶっていた。

さすがに着ていくものなくなるよね。

 

 

そこで、だ。

ここらで一生使えるドレスを買おうじゃないのと思い立って、

鼻息あらく、街なかの有名セレクトショップの門を叩いた。

 

 

「名前は知っているけど一度も中に入ったことがない」

 

そんな憧れのお店の筆頭株にすすす…と侵入。

そこは、ふだんはきっと常連さんが多いのだろう。

 

「この人誰」的なわたしが入店したとたん、

定員さん方がぎょっとおどろいた感じが否めなかったね。

あっ。

 

 

ひと目ですきだ、と思うドレスに出合ってしまった。

 

 

大胆なカッティングが効いたブラックのロングドレス。

そのブランドの特徴であるくるみボタンと

言葉では説明しにくい、「ならでは」の気品が胸をたかぶらせた。

 

 

これほしい。

秒でタグひっくりかえす。

100,000円。

じゅっ…。

 

 

でもほしい。

「お客様〜このブランドご存じですか?」

「ししし知ってます」

「わ〜お目が高い!」

「あの、小松菜奈ちゃんとかperfumeがよく着ていますよね」

「そうなんです、よくご存知で!」

やっぱりほしい。

「この上品なブラックが良いですよね〜」

「ええほんとに」

「一生着られると思います」

「そうですかね…」

「はい! お客様の雰囲気に似合われると思います」

(伝家の宝刀、キタよーーーーーー)

 

 

どうしてもほしい。

「試着されますか?」

「いえ結構です」

 

 

知っている人は知っている。

わたしは試着が嫌い。

だからめったに試着をしない。

めちゃ高いけど、どうしても欲しい。ああこれを着たい。

(がんばって働いているから、いいやろ…)

ふるえる手でカードを取り出し、購入(ローンです)。

「お客様、ありがとうございました〜!」

 

 

*ヘルシーてなんすか

 

滞在時間わずか10分。

知っている人は知っている。

わたしはあまり迷わない。

 

「わたしはがんばっている」

「わたしは間違っていない」

「きっと会場の視線はこれで独占だろう」

なんどもブツブツとくりかえし、帰宅した。

 

 

ドレスに合わせるヘッドアクセは、ネックレスは、靴は。

るんるん顔で、帰りつくなりドレスを着た。

着た。

 

着た?

 

着れなかった。

 

おさまるべきところになにもおさまっていない。

前述したが、このドレスは胸元の大胆なカッティングが特徴。

ドレスを着てアンニュイな表情を魅せる

外国人のお姉さんの画像もwebでチェック済みだった。

あんな風になれるんだぜ…と思っていた頃はしあわせだった。

「この鏡の前にいるエロばばあみたいな人は誰かな?」

 

 

大胆なカッティングがあだとなり、胸元は大きくはだけ。

腰回りのカーブは異国のベテランオペラ歌手を彷彿とさせ。

なぜ小松菜奈ちゃんが着ているドレスをわたしが着れると思ったんだろう。

 

絶望という名のドレスをはぎとり、そっと紙袋に戻した。

▲エロばばあで検索するとトラウマになったので天草の風景をお届け

 

それにしても…100,000円は痛い。痛すぎる。

こうなりゃ開き直って、

「何本原稿書かなあかんねん〜」と笑い話にしようと思っていた矢先、

撮影の合間に、悪友のYカメラマンにこの話をちらりとした。
ひとしきり大笑いしたあとに(笑うな)、彼女が

「写真を撮ってメルカリで売ろうや」と言った。

 

 

そこからはお互いの本領発揮。

ふだんの仕事より具合いいんじゃないかという写真を撮り、

ふだんの仕事よりエモい商品コメントをわたしが書いた。


▲こんなところでプロの仕事を目の当たりにして微妙

 

*絶望を希望に変える力あなたにはありますか

 

結果。

なんと。

同額で売れた。

しかも速攻。

「このドレスを着て楽しんでくださいね!」と書かれた

お店からのショップカードは、遠く見えないところにしまった。

 

 

ちなみにわたしはこのコラムでも散々書いてきたが、

「生きていく力が弱すぎる」ので、

商品の発送はYカメラマンにやってもらった。

ちょっと発送とか、ほんとによくわからない。

なんならご丁寧にアイロンかけようとして

「絶対かけるな、うちまで持ってこい」と言われた。

 

ドレスを購入されたのは大阪の女性だった。

FBでちらりとお姿を見てみたら、

ヘルシーで美しい人だった。

ピアノの弾き語りをしたりしている人らしい。

きっとあなたには似合うよ。

絶望という名のドレスを着て、うたってほしいな、希望のうたを。

福永あずさ

熊本市在住のフリー編集者・ライター。高校まで宮崎暮らし。カメラマンの夫と愛猫と、水前寺の古いアパートでぼんやり暮らしてます。  バーと離島とスナックが個人的なパワスポ。年に2・3回、日本の酒場をめぐるひとり旅に出ます。遊ぶことに関して脅威の集中力を発揮しますが、請求書をすばやく出す、掃除機をきちんとかける、などの生きていく力がほぼ皆無。一年中唐揚げ食べてます。

この人の記事を見る